「米中戦争」だけを見る投資家が見落とす本質 本当に「トランプ発言」が波乱の要因なのか?
足元株価下落が生じた理由の「本尊」は、トランプ発言ではなく、これまでのアメリカの株価の上昇が、過度の楽観による浮かれ過ぎであり、その反動が生じたためだと考えている。つまり、トランプ発言があろうとなかろうと、早晩世界の株価は反落に転じていたのだろうと解釈している。
マクロ経済統計に関しても、GDPや雇用統計の堅調さばかりをはやし、ISM指数などの不調は、市場は見えないふりをしていた。アメリカの株式市場全般に限らず、物色の傾向についても、前回のコラムでは、ラッセル2000指数の上値の重さや、グロース株(成長株)に偏重しバリュー株(割安株)を放置気味の物色動向の危うさを述べた。
株式市場から他の証券・金融市場に視野を広げると、社債市場でリスク軽視のジャンク債(低格付け債)の買いが行き過ぎているのではないか
中国経済が著しく悪化していた、というのは言い過ぎだと思われるし、その中国経済が大きく改善する、と言うのも、楽観に過ぎると感じられる。
それ以上に、日米欧などの経済の先行きを心配した方がよい。まだアメリカの経済は悪くはないが、これまで頭打ちから低下傾向が強まっていた住宅着工や自動車販売に加えて、好調を持続していた鉱工業生産も、昨年12月をピークにじわじわと弱まり始めた。小売売り上げは3月に急増したが、昨年12月から今年2月は下振れをみせ、これまでのような一本調子の増加ではない様子が表れている。
いったん日経平均株価の動きが落ち着いても、反発力は鈍く、数カ月単位の流れでは、世界の景気実態の悪化に沿った下落基調がいずれ再開しそうだ。そうしたなか、今週の日経平均株価としては、2万0900~2万1700円を予想する。2万2000円台回復は難しく、どちらかと言えば2万1000円を割り込むリスクが高い、という意味だ。
日経平均株価の下値メドは一体いくらなのか? 米中通商協議の暗転で先行きは不透明に
波乱の幕明けとなった令和相場。米中通商協議の暗転が世界的な株安を招き「祝賀ムード」に水を差した格好になっている。果たしてこの急落は押し目買いの好機となるのだろうか。テクニカル面から日本株の見通しを探ってみた。
5月8日の日経平均株価は2万1602円と大幅続落した。連休明けの2営業日での下げ幅は656円に達した。米中通商協議の不透明感に加え、リスク回避にともなうドル安・円高の流れが進行し、中国関連株や半導体株に売りが出て相場全体を下押した。日経平均株価は4月相場の上げ分(2万1509円→2万2258円)をほぼ吐き出し、およそ1カ月ぶりとなる安値水準に沈んだ。
ただ、筆者はテクニカル面から見て2万1200~2万1300円で下げ渋る展開を想定している。下値メドとして以下の3つに注目しておきたい。まずは75日移動平均線(2万1344円:8日時点)。2019年に入ってからの日経平均株価は同線が下値支持線となっている。3月にも下げ局面が2回あったが、いずれも75日線前後で下げ止まっている。
次にマド埋め水準(2万1267円)。新年度入りの4月初めにマドを空けている。今後、もう一段調整した場合でも、マド埋めと同時に売りが一巡することが想定される。最後に3分の1押し水準(2万1256円)。通常、上げ相場における調整幅は「3分の1」もしくは「2分の1」程度といわれている。今回は、直近の上げ幅(1万9155円→2万2307円)から算出している。
以上のことから、山場を迎えている国内企業の決算内容や週内の米中通商協議等の見極めが必要なものの、テクニカル面からみた日経平均株価は2万1200~2万1300円前後ではいったん売りが一巡しそうだ。仮に米中の歩み寄りがみられれば、中国株の戻りとともに日本株も戻りを再び強めることもありそうだ。
令和の幕開けを見舞った「米国株の暴落」の正しい読み方
トランプ米大統領が自身のツイッターで中国からの輸出品に対する25%の関税付与を実施する可能性に言及した。
一見、トランプ大統領がもたらしたかにみえるこの米国株の調整について、筆者は、過度な楽観論によって割高になった株価の調整が前倒しで来たのではないかと考えている。トランプ発言が先行き不透明感を一気に増大させたのは確かだが、それがなくても、別のきっかけによって米国株は調整したのではなかろうか。
筆者は、マクロ経済環境と整合的な株価の「均衡値」を、株価と失業率(ただし、労働参加率で再調整したベース)の間の「共和分」という統計的な関係をもとに考えるようにしている。
この関係に基づいて、4月末時点での米国株価指数(ここではニューヨークダウ工業株30種平均を用いている)の「均衡値」のレンジを試算すると、23000ドルから26500ドル(中心値が24600ドル)近傍になる。
この一般ケースで考えると、4月末時点で株価は割高感の修正が近づいていた。
4月の株価上昇をみて、強気に転じる投資家が多い中、実際に4月末時点で、5月の株価調整を予想する投資家も存在した。その投資家がみていたのは「VIX指数」であった。
「VIX指数」は、株価のボラティリティ(価格変動率)を指数化したものであるが、一般的には「ハイリスク・ハイリターン」型の金融商品に分類される株式のボラティリティが低いという状況はレアケースなので、VIX指数がほぼ一方的に低下する(その一方で株価は上昇基調にあったので「ローリスク・ハイリターン」になっていた)という最近の株式市場の動きは明らかに変であり、早晩、その反動が来るだろうという話であった。
名目3.5%成長を前提としたマネタリーベースの供給ペースとここで言及した10月までの資産圧縮ペースを前提としたマネタリーベースの供給ペースの乖離は、株価と密接な関係になる
この関係から想定される年末のニューヨークダウの水準はせいぜい昨年末並み(24000ドル近傍)と試算される。
今回の株価調整が長引くようであれば、トランプ大統領の攻撃の矛先がまたまたFRBに移る可能性がある。現状のFRBの「面従腹背」がいつ終わるかが、米国株価が中長期的に上昇トレンドの維持、ひいては米国経済の長期停滞からの脱出の鍵を握るファクターかもしれない。
平野 憲一:日経平均株価2万2500円の「壁」は厚くない 2019年「セル・イン・メイ」は当てはまらない?
昨年12月の相場で売った「空売り筋」は、その後「不安の中をよじ登る」型の相場だったため、明確な踏み上げ(買い戻し)のタイミングがつかめていない。そのため、エネルギーは溜まったままで、絶対期日である6月を迎える。それらを考えると、この時期話題になる「セル・イン・メイ」は今年においては当てはまらないのではないか。
上値の抵抗帯もすでにない。上値の抵抗力に使われる「価格帯別出来高」だが、一般投資家が使う昨年初めからの計算では2万2500円に大きな抵抗帯が見える。しかし高値を付けた昨年10月を起点とする「価格帯別出来高」では、2万2500円は薄い雲に過ぎない。
現在の日本株は、寄り付きは欧米の株価次第(従って、マドあけスタートが多くなる)、中盤は上海総合指数や香港ハンセン指数を見ながら、終盤は日銀のETF(上場投資信託)買い動向で決まる日々となっている。まったく情けない状態だが、NY株が再度史上最高値を取り、上値方向に動いたらどうするのか。
もちろん不安もないわけではない。5Gの本命と見られたアンリツの今期予想が大幅減益で、こうした予想に市場は戸惑っており、中心テーマである5Gに対して、再構築しなければならなくなった。それでも3月の建設受注が前年同月比68.9%の増加を記録。4兆1052億円となり、1992年3月の4兆3000億円に迫った。平成の約30年間はバブルの後処理、真性デフレとの戦いだった。令和時代は新しいスタートラインに立ったと言える。今の「改元フィーバー」は、世界中で唯一日本人にしか分からない感覚だ。日本市場の自主性に期待したい。以上を勘案、今週の日経平均予想レンジは2万2200円~2万2800円とする。
次の世界的な不況はとてつもなく大きくなる 米中の債務バブル膨張で事態はいずれ深刻化
平野 憲一:日経平均が10連休後も上がると読む5つの根拠
世界の株価は年初来高値を更新し、ダウは史上最高値にあと約270ドル、インドムンバイSENSEX30においては史上最高値更新となっている。その中でNY金先物は静かに「年初来安値」を更新した。これは典型的なリスクオンの形だ。さらに2.3%台まであった米10年債利回りは、2.6%をうかがう展開で、カネ余り資金は債券からも離れようとしている。株の独り勝ちだ。
22日の3連休明けのNY株は、予想を下回ったPMIや3月の住宅着工件数などで、売りから始まるかも知れない。だが、もしマド(窓)をあけて下げたら、そこは「押し目買い」だと思っている。これらを総合して、今週の日経平均予想レンジは2万1900円~2万2700円としたい。